学校に行きたい。
お腹が空いた。
学校に行けば給食が食べられる。
学校に行かせてほしい。
「うるせえんだよ、てめぇは。その汚ねぇ顔の痣が消えるまで家で大人しくしてろ」
なにか食べたい。
お腹がグーグー鳴っていた。
いつもあそこに行ったあとは、体のあちこちが痛くて家まで歩いて帰るのがすごくつらい。
だけどお父さんには言わなかった。
この前『嫌』って言ったらお父さんに怒られたから。
急に機嫌が悪くなって『嫌だって思っちゃいけないんだ。いつも笑ってなきゃダメなんだ』って言われたのを僕はちゃんと覚えてる。
あのお家に行ったあとのお父さんは優しい。
機嫌が良いお父さんは久しぶりだから、僕は一生懸命ニコニコした。
僕を見てお父さんが笑う。
「貴則ハンバーガー買って帰ろう。お腹空いたよな?」
お父さんが笑っていると僕も嬉しくなる。
こんな風にいつもお父さんの機嫌が良いといいのにな。
ハンバーガーを買ったあと、家までずっと手を繋いで帰った。
「お父さんは出かけてくるからな。ちゃんとイイ子で留守番してるんだぞ。」
家に帰って、お父さんとハンバーガーを食べた。
さっきまでとっても美味しかったのに、ひとりになった途端、急にハンバーガーは不味くなった。
なんでだろう?
パサパサのパンや油の浮いたお肉が気持ち悪くて、もう食べたくなくなった。
でもせっかくお父さんが買ってくれたのに、残したりしたらきっと怒らせてしまう。
それに今度いつ食べれるかわからない。
すっかり冷たくなってしまったハンバーガーを少しづつコーラで流し込むように飲み込んだ。
コーラは甘いけどクスリみたいな変な味がする。
気持ち悪い。
でもお父さんが機嫌悪くなるよりいい。
がんばって全部食べた。
夜遅くにお父さんが帰って来た。
すごく機嫌が悪い。
ブツブツ独り言を言いながら怒っている。
・・・・怖い。
布団の中で必死に目を閉じた。
早く朝が来ればいい。
そうしたらお父さんの機嫌が直ってるかもしれない。
早く朝が来て欲しい。
どうかお父さんが僕の所へやって来ませんように。
このまま朝が来ますように。
でもお父さんはふすまを開けて僕のところへやってきた。
「貴則!貴則!」
ゆさゆさと布団の上から揺さぶられる。
僕は必死で目を閉じ続ける。
僕は寝てる。
僕は寝ているから起こさないでほしい。
急に掛け布団を剥がされた。
髪を掴まれて引き起こされる。
痛い。
でも僕は寝てるんだから声を出しちゃいけない。
痛い顔もしちゃいけない。
「おい!てめぇわかってんのか!全部てめぇのせいなんだぞ!俺がこんななのも、全部てめぇがいるせいなんだ!お前なんか生まれてこなきゃ良かったんだ!てめぇが出来たせいで俺は!お前がいなきゃ俺は今頃もっと幸せだったんだよ!!」
髪を掴まれてガクガク揺さぶられる。
痛い!痛い!痛い!
ブチブチと髪の毛が抜ける。
そのままタンスに頭を打ち付けられた。
何度も何度も・・・・
「分かってんのかって聞いてんだよ!」
はい、分かってます。
ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい
「シカトしてんじゃねー!てめぇ!俺のことバカにしてんじゃねーぞ!!」
お父さんのげんこつが飛んできた。
顔を殴られちゃいけない。
痣が出来たら学校に行けない。
「てめぇは最低なんだ!分かるか?!お前は要らない人間なんだよ!!」
顔だけは殴られないように腕で覆って蹲る。
背中にお父さんの足が乗ってきて踏み潰された。
苦しい。
「ふざけんなよ!お前なんか死んだって誰も悲しまねぇんだ!てめぇなんてみんなに嫌われてんだよ!分かってんのかよ!」
色んな所にお父さんの足が飛んでくる。
痛い!痛い!痛い!
お腹が背中がお尻が足が痛い。
何度も何度も蹴られる。
痛い。
「悪いのは誰だよ!」
僕です。
「最低なのは誰だ!」
僕です。
「誰のせいでお母さんは出てったんだ!」
僕です。
「みんなお前のせいなんだよ!わかってんのかよ!!」
はい、分かってます 僕が悪い子のせいです。
ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい
痛い。
ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい
痛い。
ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい
痛い。
早く朝が来ればいいと思った。
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